「量子メス」、副作用少ないがん治療　東芝など実用化　重粒子線治療装置

「設計は固まってきた。実証機の建設に着手したい」。量子科学技術研究開発機構（QST）で量子メスの開発を主導してきた白井敏之プロジェクトマネージャーはこう意気込む。今夏にもQST病院（千葉市）で新棟の建設に着手し、3～4年かけて整備する計画。政府は2021年度の補正予算に関連費用として10億円を計上した。

「メス」といっても、刃物の形をしているわけではない。量子とは原子レベル以下の微小な物質やエネルギーの単位のこと。量子メスは炭素などのイオン（電気を帯びた原子）を光速の70%まで加速してつくり出す「重粒子線」と呼ぶビームでがん細胞のDNAを傷つけ、殺す技術を指す。

重粒子線を使った治療はすでに存在するが、従来より小型で高性能の次世代装置を量子メスと呼ぶ。その名称には、メスのように医師が手軽に扱えるようにする狙いが込められている。

重粒子線による治療は放射線治療の一つだが、他の放射線治療に比べ多くの利点がある。がんの病巣をピンポイントで狙い撃ちし、正常な細胞へのダメージを最小限に抑えられるため副作用が少ない。エックス線などが苦手な体の奥のがんの治療に向き、手術などが難しい骨・軟部肉腫や頭頸部（とうけいぶ）のがんにも有効だ。